研究概要 |
本研究は前年度の研究に引き続き、大腸菌の熱死滅反応に及ぼす予備保温温度過程の影響を解析したもので、今年度はとくに、高温側での解析を行い、以下の結果を得た。生存数測定は当初、生育遅れ時間解析法による予定であったが、この解析に必要な自動生育記録装置の故障のため、平板法に変更して行った。 まず、予備保温温度45℃において、細胞集菌保温温度である0℃からの昇温を希釈によらず直接フラスコを移す方式とした場合、加熱処理55℃での死滅のD値は180分までの間、予備保温時間とともに上昇し続けた。一方、この昇温を10倍希釈法によったときには異なる様相を示し、90分までは上の場合と同様な経過で上昇したが、その後は180分まで次第に低下し続けた。しかし、予備保温を37℃で行ったときには、すでに認めているように、このようなD値の上昇現象は顕著ではなく、また昇温の方法による差も認められなかったことから、上の現象は高温側での予備保温に特徴的なものであることが明らかとなり、この細胞の耐熱性化は実際の加熱殺菌における条件設定理論に問題を提起するものである。 この高温での予備保温における耐熱性化現象の要因が細胞の性質に由来するものか、それとも遊離した物質による保護効果など細胞外にあるのかについて検討した結果、細胞自体の変化によることが示唆された。また、クロラムフェニコールを用いた実験から、37℃での耐熱性化には新規のタンパク質合成は関与していないことがわかった。さらに、予備保温中の細胞のタンパク質パターンをSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法によって解析したところ、とくに顕著に増減するタンパク質は見出せなかった。 また、この耐熱性化をもたらす予備保温効果について、予備保温時のpHの影響を調査し、5〜8の範囲のどのpHでも効果が認められたが、7で最大の効果が得られた。保温時の細胞濃度の影響については7,8,9乗のオーダーのいずれも同程度の効果であった。 今後、予備保温処理の結果に基づいて、さらに非定温過程における耐熱性化の特性を検討する。
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