本研究は、食品の細菌汚染の指標菌である大腸菌を材料として、高圧処理したときにどのような損傷が生じるのかを微生物生理学的に明らかにし、その知見をもとに、より殺菌効率の高い処理条件を見出し、食品加工における加圧処理のより広い実用化に寄与せんとすることを目的とした。 1)細胞分裂に対する高圧処理の影響(山崎) 対数増殖期大腸菌は静止期の菌に比べて極度に高圧処理に感受性であった。そこで対数増殖期の菌の高圧処理を25℃、75MPa、30分の条件に下げ、高圧処理後、肉汁培地で生育させたところ大部分の菌が伸長細胞となった。DAPI染色により核領域を調べてみると核は分配されていた。高圧処理によりDNAに何らかの傷害が起こりSOS応答の結果として伸張細胞が出現したことが疑われたが、この系関連のrecA、sulA変異株でも同様に伸張細胞が出現し、その可能性は排除された。次に細胞分裂に必須のFtsZリングの形成について調べたところ伸張細胞(4〜8細胞長)の端に1つ認められる程度で、FtsZリング形成に不足または欠陥があることが判明した。高圧処理後、経時的に一定菌体量当たりのFtsZ蛋白質量をウエスタンブロットで調べたところほぼ一定であった。高圧処理によりFtsZは変性を受け、健全なFtsZが不足したと考えられる。 2)高圧処理時に作用する保護物質の検索(荻原) 静止期の大腸菌を高圧処理(25℃、300MPa、30分)した後、デソキシコール酸含有のDESO培地にまくと殆どコロニーが出現しないことを見出だした。即ちデソキシコール酸に対して感受性となる。ところが高圧処理時に滅菌した5%スキムミルクを添加しておくと、可成り生菌数が回復することが分かった。この回復に効果がある物質の本体を調べた結果、カゼイン画分を除いたホエー画分にあり、そこから先は分画すると保護活性も分散することから、単一の保護物質を得るには至らなかった。
|