我々は、遺伝性白内障ラットであるSCRを用いて水晶体の混濁化機構を研究している。これまでの解析から、混濁化する水晶体ではカルシウム濃度が著しく上昇することや、それによって活性化されるカルパインが水晶体タンパク質の凝集や不溶化(混濁化)を促進することを明らかにした。また、誘導型NO合成酵素(iNOS)の阻害剤であるアミノグアニジン(AG)に抗白内障作用があることを見いだすとともに、AGを用いた解析から、水晶体混濁化へのiNOSの関与や水晶体へのCa^<2+>の流入とiNOSとの関連性を示唆する結果も既に得ている。そこで本年度は、水晶体混濁化へのiNOSの関与をより明確にするために水晶体混濁過程に於けるiNOSの動態を解析するとともに、iNOS発現に及ぼすAGの影響を調べた。また、水晶体へのCa^<2+>の流入とiNOSとの関係をより明確にするためにカルシウム濃度並びにiNOSの動態を経時的に解析した。その結果、1)白内障発症群の水晶体でのみiNOSmRNA並びにiNOSタンパク質が高発現すること、2)AGの投与によって混濁化が抑制された水晶体ではiNOSの発現が強く抑制されていること、3)iNOSの高発現はカルシウム濃度の上昇やカルパインの活性化によりも更に早い時期に起こること、等が判明した。以上の結果から、白内障を発症する水晶体ではiNOSに由来するNOやONOO^-等のフリーラジカルが細胞膜を傷害することによってCa^<2+>の流入が亢進し、カルパインの異常な活性化を引き起こすものと考えられる。
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