研究概要 |
胃がんバイオマーカーに影響を与える因子を抽出するとともに、それらを踏まえ、今後のより効率的な胃がん予防法を確立する目的で、日本、ドミニカ共和国(ド国)、タンザニア連合共和国(タ国)、及び中国の一般地域住民に対して健康調査を実施し、対象者の属性(調査対象国、性、年齢)、及び対象者の生活習慣(食習慣、喫煙、飲酒)、生活環境、上部消化管疾患既往歴、及びそれらに関係する自覚症状の有無などと胃癌バイオマーカー、すなわち、血清ペプシノーゲン(PG)諸値、血清ガストリン値、及びヘリコバクタ・ピロリ(HP)感染の有無との比較、検討を行った。 平成13年1月、2月にタ国で胃がんバイオマーカーの検査を含む健康調査を、タ国の倫理委員会の承認を受け、2地域(キバッハ行政区、ハイ行政区)の一般地域住民、男性245人、女性328人、計573人に対して実施した。また、平成13年11月から平成14年3月に、中米ド国において、タ国での開査と同じプロトコールで、日ド友好医学教育センターの承認の受け、3地域(サントドミンゴ市、サンペドロ・デ・マコリス市、サンチアゴ市)の一般地域住民、男性451人、女性764人、計1,215人に対して健康調査を実施した。この2か国での健康調査に加え、研究代表者らが本研究の当該研究期間前に実施した健康調査データ、すなわち日本(平成3年)、及び中国(平成8年、平成9年)において、それぞれ一般地域住民、男性323人、女性536人、計859人、及び男性648人、女性1,093人、計1,741人に対して実施した健康調査データを加え、日本、中国、タ国及びド国の計4か国で、胃がんバイオマーカーの比較、検討を行った。4か国の年齢別人口構成は、大きく異なるため、国別比較は1995年の世界人口を基準人口にとり、年齢調整をして算出した。その結果、PGI値とPGI/PGII比による慢性萎縮性胃炎(PGI≦70&PGI/PGII≦3)の有病率(1995年世界人口年齢調整)は、日本、中国、タ国、及びド国で、それぞれ、0.492、0.117、0.319、及び0.202であり、4か国間で大きく異なっていた。また、HP感染率(1995年世界人口年齢調整)も、それらの4か国で、53.0%、77.6%、86.2%、及び62.1%と大きく異なっていた。一方、胃がんの前がん病変である慢性萎縮性胃炎に影響する因子を、慢性萎縮性胃炎を従属変数とし、調査国、性、年齢、調査時の上部消化管症状、上部消化管疾患の既往、喫煙指数、アルコール摂取、HP感染の有無を独立変数とする、ロジスティック回帰分析を実施し、調査国、年齢、ガストリン値、HP感染の有無の変数が抽出された。慢性萎縮性胃炎罹患のリスクは、日本に比し、中国、タ国、及びド国では、それぞれ0.14倍、0.62倍、0.38倍とリスクが軽減し、逆に、年齢、及び血清ガストリン値が、それぞれ1歳、及び1pg/ml増加すると慢性萎縮性胃炎に罹患するリスクが、それぞれ1.3%、0.6%増加していた。また、年齢や血清ガストリン値と同様に慢性萎縮性胃炎の罹患リスクを上昇される因子として、HP感染があり、HP感染がある人は、HP感染がない人に比べ、慢性萎縮性胃炎のリスク5.3倍増加させていることが明らかになった。
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