本研究の目的は、ミトコンドリア病の治療のため、本疾患の特徴である変異ミトコンドリアDNA(mtDNA)と正常mtDNAのヘテロプラスミーの状態を、機能的に正常域まで正常mtDNAの割合を上昇させることが可能な要因を見いだすことである。胎児の胎内での低酸素状態に着目し、胎内でのエネルギー代謝のほとんどが解糖系に依存するため、好気的なエネルギー産生を司るmtDNAの変異が卵細胞の分裂、組織の形成、発育に障害とならず排除機構が機能せず、変異の割合が高度で存在すると考えられる。 1)そこでA3243G変異とT8993G変異をもつ培養線維芽細胞を低酸素と高酸素で培養することにより、変異mtDNAの割合の変化をもたらすかどうかを調べた。両変異を高割合でもつ群と低割合でもつ群に分け、培養線維芽細胞を高酸素(培養液中のPO2が400〜600mmHg)にて72時間まで培養し、経時的に変異率を調べた。結果は一細胞群で軽度の変異率の低下を認めたが、大きな変化は認められなかった。低酸素(PO2が65〜85mmHg)培養では変異率はほとんど変化を認めなかった。 2)次に、グルコース濃度を0%、0.01%、0.05%、0.1%(定常)、0.2%、0.5%とした培地で培養を72時間続け、経時的に細胞を採取し、PCRにてmtDNAの変異率を求めた。その結果、A3243G変異とT8993G変異をもつ培養線維芽細胞群において変異率に有意な変化は認められなかった。
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