肥満遺伝子産物のレプチンは、視床下部に働いて、摂食を抑制しエネルギー消費を促すことが知られている。この中枢作用に加え、末梢味覚系においても調節作用を発揮することを我々は見出した。即ち、正常マウスでは、血漿レプチン濃度の上昇により甘味刺激に対する味神経応答が選択的に抑制されること、さらに、レプチンが味細胞のK^+チャネルを活性化することを明らかにした。しかし、この作用を受ける味細胞が甘味刺激に対し応答しなければ、甘味応答の選択的調節にはつながらない。 そこで本研究では、レプチンに応答する味細胞が、甘味刺激のサッカリンにも応答するか否かをパッチクランプ法により検討した。その結果、レプチン存在下でK^+コンダクタンス増大を示した味細胞のほとんど全てが、サッカリンに対し逆にK^+コンダクタンスの減少を生じた。この応答を膜電位で見ると、同一味細胞において、サッカリンの脱分極に対し、レプチンは過分極を生じる結果となり、甘味刺激による脱分極がレプチン存在下では減弱されることが判明した。正常なレプチン受容体を欠く遺伝的糖尿病マウスでは、高濃度のレプチン投与によっても、味神経甘味応答の抑制や味細胞のK^+コンダクタンス増大が認められず、味細胞でのレプチンによる抑制性調節が機能しないため、より高い甘味応答性を示すものと考えられた。 上記の作用がレプチン受容体を介することを検証するため、抗体染色法およびin situ hybridizationを用いて受容体の検出を行った結果、味蕾内の一部の細胞は、レプチン受容体、特に細胞内情報伝達に不可欠なlong-formのレプチン受容体を発現していることが証明された。甘味受容体候補の一つT1R3も味蕾内に検出されたが、レプチン受容体との共発現について今後検討が必要である。また、レプチン結合からK^+チャネル活性化に至るまでの細胞内情報伝達系についてさらに検討する予定である。
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