本年度の研究では、Porphyromonas gingivalisの病原因子のmRNAに対するアンチセンスRNAを導入するよりも、同細菌の病原性を減弱させるのにより効果的であると考えられるP.gingivalisの自己融解酵素の検出および単離を試みた。まず、P.gingivalisを同細菌の加熱死菌体を含む寒天培地に接種し、溶菌の有無を調べたが、培地中の菌体を溶菌する現象は認められなかった。次に、P.gingivalisの培養上清と菌体成分より粗酵素画分を調製し、ザイモグラム法を行ったが、溶菌バンドは検出されなかった。現在、P.gingivalisの培養条件やペプチドグリカンの調製法に改良を加えてP.gingivalisにおける自己融解酵素の存在を確認している。加えて、P.gingivalisの全塩基配列データベースより、ファージと相同性を示すampD遺伝子の塩基配列を検索し、この遺伝子のコードしているN-acetylmuramoyl-L-alanine amidaseの性質の解明に取り組んだ。ampD遺伝子をPCRで増幅して、プラスミドベクターに挿入し、得られたキメラプラスミドを用いて大腸菌の形質転換株を作成した。この形質転換株をP.gingivalisの加熱死菌体を含む寒天培地に接種したところ、微かなハローが認められた。現在、この遺伝子の発現の増強を試みている。一方、予防歯科外来患者の唾液と歯肉溝液をサンプリングし、P.gingivalisの検出頻度と歯周病との関連を調べた結果、慢性歯周炎と診断された患者の唾液の66%、歯肉溝液の75%からP.gingivalisが検出された。
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