本研究では、まず、病原因子のmRNAに対するアンチセンスRNAを充分量発現させることを目的として、Porphyromonas gingivalisで高い発現効率を示すプロモーター配列の開発を進めた。P. gingivalisの病原因子と同方向にプロモーターを有しないクロラムフェニコールアセチル化酵素(CAT)遺伝子を挿入し、各形質転換株についてCAT活性を測定したところ、各病原因子において大きなプロモーターの発現活性の違いは認められなかった。よって、上記実験で調べられたプロモーター配列についてコンピューター解析を行い、より高い発現活性を示すプロモーター配列を想定し、人工変異導入法を用いて作成したが、発現活性の増強には至らなかった。次に、P. gingivalisの病原因子のアンチセンスRNAを導入するよりも、同細菌の病原性の減弱により効果的であると考えられるP. gingivalisの自己融解酵素の単離を試みた。P. gingivalisを同細菌の死菌体を含む寒天培地に接種し、溶菌の有無を調べたが、培地中の菌体を溶菌する現象は見られなかった。そこで、P. gingivalisの全塩基配列データベースより、ファージと相同性を示すampD遺伝子の塩基配列を検索し、PCRで増幅してプラスミドベクターに挿入し、得られたキメラプラスミドを用いて大腸菌の形質転換を行った。この形質転換株をP. gingivalisの死菌体を含む寒天培地に接種したところ、微かなハローが認められた。現在、この遺伝子の発現の増強を試みている。一方、予防歯科外来患者の唾液と歯肉溝液をサンプリングし、P.gingivalisの検出頻度を解析した結果、唾液も歯肉溝液同様、歯周病細菌検出のためのサンプルに成り得ること、P.gingivalisの検出頻度と歯周ポケットの深さおよびプロービング時の出血に深い関連があることが確認された。
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