免疫寛容機構は、過剰免疫反応を防ぐ防御機構であり、その不全は経口アレルギーなどの過剰免疫反応を誘発する。本研究では、経口免疫寛容の化学物質による障害をモデルとして、化学物質による過剰な抗体産生誘発の機序を解明することを目的とした。そのため、1)異種タンパク質であるオボアルブミン(OVA)を抗原とするマウスの経口免疫寛容モデル系を確立し、2)この免疫寛容の障害因子として、医薬品のシクロホスファミド(CP)、エストラジオール(E2)、ディーゼル排気微粒子の主成分の一つであるフェナントレンなどの環境物質の抗体産生に対する影響を解析し、3)フェナントレンの影響を中心に免疫寛容修飾の機序を経口免疫寛容の調節に関わるヘルパーT細胞種への影響から解析した。ヘルパーT細胞種であるTh1、Th2細胞の活性への影響は、各細胞の制御を受けているOVA抗体のIgG2a、IgG1サブクラスおよび各細胞に特異的に産生されるサイトカイン(IFN-γとIL-4)の産生量から測定された。その結果、1)雌BALB/cマウスを用いて、OVAを抗原とする短期間で誘導でき安定かつ強力な経口免疫寛容モデルを確立し、Th1、Th2細胞の機能がともに抑制されることを明らかにした。2)このマウスモデル系を用いて、経口抗原投与時に投与したCP、E2、フェナントレンの経口免疫寛容に対する影響を検討した結果、いずれの物質も高用量でOVA特異的なIgG1抗体の産生を増加し、IgG2a抗体の産生を抑制する傾向があり、これらの物質がTh2細胞の免疫寛容を阻害し、過剰な抗体産生を生じていることを示した。さらに、3)用量依存的なOVA特異的IgG1抗体の産生を増加させたフェンナトレンの経口免疫寛容修飾の機序を培養脾細胞およびフェナントレンを投与した免疫寛容マウスから得た培養脾細胞で調べ、IL-4に比べてIFN-γの産生が顕著に抑制されたことから、フェナントレンはIFN-γの産生抑制を介してTh2優位なアレルギー抗体の過剰産生を誘発する可能性を示した。
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