多巣性運動ニューロパチー(Multifocal Motor Neuropathy ; MMN)は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)と類似した筋萎縮と節線維束攣縮を示す疾患であるが、大量ガンマグロブリン静注法で治療が可能であり、その診断には伝導ブロックの証明が重要である。MMNでは運動神経に較べて知覚神経はブロックを受けにくいことが知られている。その病理像として局所性の脱髄が示されているが、なぜ伝導ブロックが運動神経に選択的におこるかについては明らかになっていない。従来伝導ブロックは脱髄による髄鞘の破壊による活動電流の散逸が原因と考えられてきた。我々は、研究分担者のHugh Bostock教授とともにヒト末梢神経の軸索機能の非侵襲的な検査法を開発し(業績2、3)、軸索のイオンチャネルや興奮性の異常によっても伝導ブロックが生ずることを明らかにした。とくにMMNにおいて著明な筋疲労現象がおこることを見い出し、その機序がNa-Kポンプの活性化による軸索膜の過分極であることをはじめてあきらかにした(業績4)。これは末梢神経疾患で筋疲労がおきることを示した最初の研究となった。また、この膜の過分極がMMNの病巣周辺部で持続的に存在することを示し、1.MMNでは病巣の中心部で膜の脱分極性伝導ブロックが存在する、2.この脱分極と過分極の境界部位で筋線維束攣縮が生じうる、3.知覚神経線維では、Na-Kポンプ活性が元来高いため、この脱分極性伝導ブロックをおこしにくいことが推測された(業績5、6)。この一連の研究によりMMNの病態生理がほぼ完全に明らかにされた。また、抗GM1抗体の関与は本病態を来たすためには必ずしも必須ではないことが示唆された。
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