研究概要 |
本研究は、わが国の学校数学のカリキュラムにおける数学的概念の取り扱い方について認知意味論的分析を加えることを目的とした.平成12年度は,認知科学における認知意味論研究の全体像をレビューし、分析枠組みを検討した.特に、LakoffとNunezによる研究に着目した. 平成13年度は,まず,数学科の指導に携わる中学校教師を対象に,質間紙調査を実施し,教師が数学的概念をどのように捉えているかを,認知意味論の枠組みから分析を行なった.教師には,教科書の影響が強くみられ,教科書を媒介にして,理解の仕方の共有がかなり達成されていると考えられる。この分析では,LakoffとNunezの数学的概念の分析との共通性がみられた.しかし,生徒の理解や関心を考慮した認知モデルが見出され,数学研究の文脈における認知モデルと,教育実践において適切なモデルとの相違を指摘した.次に,中学校数学の授業の観察研究を行った.ビデオカメラやMDレコーダによって記録し、教室内ディスコースを中心に分析し,授業内で様々な認知モデルが関わっていることが明らかになった.同時に,教師が様々な認知モデルを駆使して,生徒の理解を促す工夫をしている様子が窺われた.生徒側は,日常生活や以前の学習で生成した認知モデルにとらわれて,必ずしも教師の意図する認知モデルに対応できていない状況があり,学習上の困難が生じる場合がみられた. 平成14年度は,前年度のデータ分析をさらに深めた.特に,認知意味論の一翼を担う理論でありながら,数学教育研究ではあまり取り上げられていないメンタル・スペース理論に着目し,N. C. Presmegと協議をもった.この理論は,数学的概念の分析だけでなく,数学的問題解決の分析にも役立つ興味深い側面があり,今後さらに研究すべきである.
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