本研究ではまず、林地からの実蒸散量を評価するための長期モニタリングシステムの確立を行った。このため、樹液流速を長期にわたってモニターする方法としてGranier法を採用し、その中に含まれるパラメータの決定法を確立した。そして、アカマツを試験木としてこのGranier法によるサップフローセンサーを高度1mと9mに設置し、吸水量と蒸散量の長期モニタリングを実施した。また、これとは別途に試験木に隣接する気象観測塔において微気象観測を行い、熱収支・渦相関法によって林地からの実蒸発散量を別途に評価した。得られた観測データに基づいて蒸散量と吸水量の日変化に着目すると、夏季の晴れた日において蒸散のピークが午前中の早い時間帯で観測され、その後急激に減少することが度々観測された。これは吸水不足から生じる水ストレスによって引き起こされる「日中低下」あるいは「昼寝現象」と呼ばれる現象である。長期的な変動傾向においては、樹液流量はほぼ正味放射や飽差の変動によく対応した変動を示したが、その変動傾向は試験木毎に異なっており、各試験木の放射環境に依存していた。また、アカマツ林地に設置した観測塔において得られた林分蒸発散量と単木からスケールアップした林分蒸散量を比較すると、蒸発散量と蒸散量の絶対値において、両者の差は季節変化することが明らかとなった。特に夏季にその差が大きく、アカマツからの蒸散量は林分全蒸発散量の約20%と見積もられたのに対し、冬季にはその値が50%を超える日も観測された。これは対象となったアカマツ林には多数の下生えが存在することが原因であると推察された。
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