本研究は、ケニア中北部の牧畜民サンブルを対象とし、彼らが形成してきた自然・家畜・人間に対する認識体系をそれぞれ調査・検討した上で、その三者を統合的に考察することを目的とする。平成13年度は、平成13年7月22日から9月23日にかけて、ケニアに海外出張し、サンブルを対象とした調査研究を実施することができた。 本年度の調査研究においては、動物認識と家畜認識の比較作業を重視したが、特に野生動物に関する民俗知識や口頭伝承の収集、家畜の分類体系や物質文化の究明などに関して調査成果をあげることができた。植物認識に関しては、サンブル県北部地域を重点地域に選定し、前年度の調査成果と比較しながら標本を収集した。これらの標本は、ナイロビ大学のハーバリウムとの協同作業で、現在学名の同定作業を進めている。 本年度の調査の結果、解明できたおもな事項は、以下の三点である。1.サンブルは、野生動物を、家畜との類似度によって認知・分類しており、牧畜生活によって形成された家畜認識のスクリーンを投影した自然認識の在り方が窺える。2.サンブル社会においては、家畜の類別的名称は、野生動物との類似性によって表現されることがあり、家畜認識もまた野生動物の認識に影響されている。3.植物に関する民俗知識は、地域的な偏差が著しく、全く別種の植物が他地域では同じ名称で呼ばれている。これは、サンブルが歴史的に移住を繰り返す過程で、既存の植物認知を、移住先の植物に応用した結果と考えられる。 これらの成果から、サンブルは、野生の動植物、家畜、人間の各カテゴリーが連続した認識体系を形成しており、統合的な観点による認識世界の民族誌作成に成果が期待できることがわかった。研究成果の公表に関しては、既に一般向け雑誌に調査の概要を報告したが、今後は、学会向けの報告とインターネット上における情報公開体制を準備する。
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