職業専門家たる監査人に今日求められている役割には、財務諸表の質の保証に加えて、それとは区別されるべき役割あるいはそれとの関係が明確でない役割もある。こうした役割は全体としてコーポレートガバナンスの中で位置づけられなければならないが、そのための前提として、監査人の役割の各々がどういう意味をもち、相互にどのような関係にあるのかを明らかにしておく必要がある。監査報告書に記載される説明区分もそうした考察を必要とする役割の1つである。これまでの研究では、ゴーイング・コンサーン問題および未確定事項にかかる説明区分に注目し、アメリカにおけるその導入の経緯およびこれらの説明区分の実態を検討することを通してその意義を検討した。具体的には、監査報告書を含めたアニュアル・リポートの財務諸表部分を収めたデータベースNAARSで説明区分の設けられている監査報告書を検索し、該当したものを詳細に検討した。その結果、説明区分は「警報」を発信することを目的とするものであり、その目的を有効に実現するために、監査人の発すべき警報の性質およびその際の記載のあり方を論じることが重要であると考えることが適切であることを示した。ゴーイング・コンサーン問題および未確定事項にかかる説明区分を警報と考えるということは、その記載が形式的にいかなる方法を採ろうとも、その実質は「警報」という新たな情報を提供するものであるということを意味する。そして、そこでは監査人が「どのような警報」を「どのような原因」のために発信するのか、さらにはそれらを明らかにできる記載のあり方とはいかなるものかが問題となるのである。 こうした知見が他国の場合にも当てはまるものであるかどうかを比較検討するとともに、特定のガバナンス・システムの中でどのように位置づけられるのかを考察することが今後の研究課題である。
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