研究概要 |
一般に,職業専門家たる監査人による財務諸表監査の基本的機能は,企業が公表する財務諸表の質を保証することにより,財務諸表利用者が当該財務諸表によってミスリードされることを防止することであると考えられている。しかしながら,財務諸表監査によって保証される財務諸表の質とはいかなるものかという点は明らかにされていない。特に,近年の監査人に対する社会的期待の拡大に起因して生じている期待ギャップへの対応の観点から議論されることの多い内部統制の評価,不正の取扱い,ゴーイング・コンサーンの評価といった問題が,財務諸表の質の保証とどのように関係しているのかについて十分な理論的説明がなされているとはいえない。 そこで,これらの問題を議論するに当たり,財務諸表監査が保証する財務諸表の質として,従来取り上げられてきた信頼性に加えて,目的適合性をも含めて考察し,それらを保証することの意義およびその保証に伴う問題を検討し,財務諸表監査が財務諸表の信頼性と目的適合性を保証すると考える場合の立証構造を示した。特に,ゴーイング・コンサーン問題については,目的適合性の保証の枠組みの中で位置づけられ,その場合に監査人による情報提供がいかに正当化されるかを,目的適合性の保証に伴う問題への対処の観点から明らかにした。さらに,今日の監査人によるコーポレート・ガバナンスヘの関与が,こうした保証に伴う問題に対処する方策として位置づけられることを示した。こうした分析を行うに当たっては,主としてイギリス監査制度を題材とし,そこから得られた知見に基づいて,わが国監査制度の改善点を示唆した。 なお,本研究の成果を博士学位請求論文としてまとめ,現在審査を受けているところである。公表の方法については検討中である。
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