研究概要 |
正標数の可換環R上では,フロベニウス写像によって,イデアルのtight closureが定義される.これは正標数の環の解析に大きな有用性をもつ道具である.実際tight closureは,興味深い特異点を新たに生み出したり,大定理の証明の簡易化を与えたりしている. 局所環R上のパラメーターイデアル1に対して,S(l)=(剰余環R/lの長さ)-(Rのlに関する重複度)と表すものとする.よく知られているように,S(l)の値は常に非負であり,環のCohen-Macaulay性はS(l)=0で特徴付けられ,Buchsbaum環はS(l)の値が一定値をなすもの,FLC環はすべてのパラメーターイデアルに渡ってS(l)を取ったとき,その上限が有限であるものとして特徴付けられる. 本研究ではR/l*の長さとRのlに関する重複度との差について考察した,ここでl*はlのtight closureを表すものとする.パラメーターイデアルlに対しT(l)=(重複度)-(R/l*の長さ)と表す.渡辺敬一氏と吉田健一氏はこのT(l)について,「非混合的局所環上ではT(l)は非負であり,T(l)=0となればRはCohen-Macaulay環である.」という予想を提示していた.筆者は後藤四郎先生との共同研究で,この予想が正しいことを証明した.また,すべてのパラメーターイデアル渡ってT(l)を取ったとき,その上限が有限となる必要十分条件も求めた. 今後の研究方向としてはT(l)が一定である環の考察,およびそれが環のBuchsbaum性にどう反映するのか.またRees環,随伴次数環においてT(l)がどのように振る舞うのかを調べて行きたいと考えている.
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