原子や分子の超高速ダイナミックスの研究には、フェムト秒の時間分解能が必要である。当研究室において開発された世界最短のサブ5fsパルスを発生する非平行光パラメトリック増幅器を用いることによって、5fsの時間分解能をもった分光を行うことができる。本研究においては、単純な系である有機色素分子/高分子の系について、非線形超高速分光を行った。具体的には、クレジルバイオレット分子(以下CV分子)をポリビニルアルコールにドープしたフィルムである。その結果、590cm^<-1>の色素分子の振動が観測された。この振動は、CV分子のring-breathing modeによるものである。この振動の時間変化を解析した結果、91cm^<-1>で振幅、周波数が変調を受けていることがわかった。振幅、周波数変調の位相はお互いにほぼ逆位相である。このような変調は、ポテンシャル曲線が変調を受けることによって説明で〓この変調の原因としては、CV分子のring-breathing mode以外の振動モードとのカップリングによるものであると考えられる。この変調は、実はフーリエスペクトルにも現れるはずである。590cm^<-1>の振動モードが振幅変調と周波数変調を同時に受けている場合、フーリエスペクトルでは、590cm^<-1>のモードの高周波、低周波の両側に変調の大きさに対応したピークが現れる。その両側のピークの大きさの比は、振幅変調と位相変調の位相関係で決まっている。振幅変調と周波数変調が逆位相であれば、高周波側のモードは打ち消しあって小さくなり、低周波側のモードは強め合って大きくなることが計算から求まっている。もし、ラマン散乱の実験で、単に590cm^<-1>の低周波側に小さなモードが観測されても、それが590cm^<-1>にどのような変調をあたえるのかは判断することができないが、実時間分光によってそれがあきらかとなった。
|