本研究ではバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)のみに特異的に高発現しており、研究申請者によって発見・同定された表層タンパク質p60K及びp85kに着目し、これらの遺伝子構造の解析・細胞壁受容体の探索やコンポーネントワクチンの作成等を通じて、治療への応用を試みるものである。 初年度(13年)は、p60Kタンパク質の遺伝子構造についての詳細な解析を行った。その結果、p60kは他菌種にも広く存在するoligoendopeptidase/collagenaseの相同体であることが判明し、組織接着及び破壊に関与している可能性が示唆された。さらに、そのアミノ末端側は他菌種に相同性のないVRSAに特異的部位であり、ヒト毛嚢細胞のtrichohyalin、actininなど、生体繊維高分子の一部分に相同性があることが明らかとなった。過去におけるヒトからVRSAへの、遺伝情報の水平移動を示唆するものであり、このヒト相同部位が、人間の免疫系から逃れる役割を担っている可能性も示唆される。 黄色ブドウ球菌p60Kタンパク質の、組織接着への関与を評価するため、この遺伝子をプラスミド上にクローン化したものを、薬剤感受性黄色ブドウ球菌へ導入し発現させたところ、ヒト細胞外マトリックスタンパク質の一つであるFibronectinへの結合能が上昇した。これは、感染の第一段階である細胞への接着を、p60Kタンパク質が促進することを示す新たな知見である。 上記の結果については、論文の投稿を準備中である。また、第73回日本細菌学会(5/29-5/31/2000、予稿集p232)において口頭発表を行った。
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