バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌株Mu50の表面で高発現するタンパク質を追求した結果、主に2つの特異的表層タンパクを見いだした。そのうちの一つp60Kは、細菌からヒトまでの広範な種に分布する、oligoendopepitidaseの類似タンパク質であることが判明した。一次配列がもっとも似通っているのは、黄色ブドウ球菌の近縁種である、Bacillus subtilisのものであったが、アミノ酸末端のみはB.subtilisのものとは大きく異なり、ヒトの毛嚢細胞でケラチン鎖の伸長に関わる、trichohyalinの一部に類似していた。これは、ブドウ球菌が進化の過程で、ヒトの遺伝子の一部を取り込んだ(horizontal transfer)ことを示唆しており、このことは、黄色ブドウ球菌がヒトの常在菌として共存する為のメカニズムの一端を明らかにする発見である。恐らく、ヒトの免疫システムによって排除されないためにヒト遺伝子の一部を取り込んだと思われるが、今後この可能性について検証しなければならない。さらに、研究代表者が属する研究室で執り行われた、黄色ブドウ球菌全ゲノム配列決定の際に、上記の表層タンパク質の遺伝子配列決定の情報が用いられた。同時に、ヒト或いは他生物種の遺伝子を取り込んだと思われる例が、黄色ブドウ球菌の他の遺伝子でも見いだされた為、その概念は別欄に記載した発表論文中で公表された。
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