悪性グリオーマに対して手術・放射線・化学療法などの集学的治療を行っても、難治性であり、新しい概念からの治療法の確立が必要である。我々はグリオーマ細胞にトランスフェリン受容体が特異的に発現していることに注目し、トランスフェリンとアポトーシスを誘導するBADの融合蛋白質を作製し、グリオーマに特異的にアポトーシスを誘導する可能性を検討する目的で本研究を開始した。 一年目はトランスフェリンとBADとの融合蛋白(トランスフェリンBAD)を精製し、腫瘍細胞特異的に毒性を示すことを確認した。しかし、毒性の強さとしては十分ではなく、毒性をさらに持たせる目的で、二年目はBADを細胞内に効率的に取り込ませることを試みた。つまり、トランスフェリンBADと細胞質内移行ドメインとの融合蛋白を精製した。これは腫瘍細胞内に効率的に取り込まれ、トランスフェリンBADよりも強い毒性を示した。また、in vitroでは、長期にわたって、腫瘍細胞の増殖抑制を示した。従って、このトランスフェリンBADと細胞内移行ドメインとの融合蛋白は、脳腫瘍治療に有用であることが示唆された。しかし、今後はこの融合蛋白の正常脳に対する毒性試験やラット脳腫瘍モデル(ラツトグリオーマ細胞の脳内移植モデルあるいは髄腔内播種モデル)を作製し、この融合蛋白を腫瘍内注入あるいは脊髄腔内カテーテルから髄腔内注入し、腫瘍抑制効果を検索する必要があるだろう。すなわち、正常脳に毒性を示さない濃度の融合蛋白で著明な腫瘍抑制効果がみられるならば、この融合蛋白は脳腫瘍治療において有用であると考えられる。
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