研究概要 |
高齢の骨粗鬆症患者に多く見られる円背は,歩行姿勢に変化をもたらし歩行時の下肢の負担も変える.この研究では,脊柱の前弯によって引き起こる歩行の変化と下肢の筋力低下との関係を,シミュレーションと臨床例の測定から検討した. シミュレーション実験では,屈曲姿勢での歩行と,脊柱を伸展した歩行を作成し逆動力学的に関節モーメントを計算した. 臨床例の検討では,50歳以上の女性13名(骨粗鬆症患者6名,健常人7名)を対象にした.脊柱の前弯は,自由定規を使い脊柱の彎曲を計ることで定量化した.大腿四頭筋の伸展筋力はバイオデックスを用いて計測し,最大値を体重で補正した値で最大筋力を評価した.歩行の計測は三次元動作解析装置(モーションアナリシスシステム)と床反力計(キスラー)を使い,得られたデータより関節モーメントを計算した. シミュレーション実験の結果では,屈曲姿勢での歩行の場合,伸展歩行に比較して歩行時の伸展モーメントが大きかった.臨床例で調べた結果も同様に,前弯の程度が大きい群で膝の伸展モーメントが大きかったが有意差は見られなかった(前弯の大きいグループの平均:0.71Nm/kg,前弯の小さいグループの平均:0.67Nm/kg). 前弯の程度が異なる2群で大腿四頭筋の最大筋力を比較すると,前弯の大きいグループの方の平均が1.41Nm/kgで小さいグループの平均1.69Nm/kgを下回っていた.シミュレーションの結果から屈曲姿勢の歩行では大腿四頭筋への負荷が増すと考えられるので,前弯の大きい群で見られた筋力の低下は,歩行時の負担の増加による歩行習慣の縮小により生じた可能性が示唆された. 今回,被験者を用いた実験で有意な差が見られなかったのは,被験者の前弯の程度にそれほど大きな差がなかったことが一因として考えられる.今後,前弯の程度の大きい被験者を増やして検討する必要がある.
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