本研究の目的は、化学的に活性な状態を持つ分子を固体パラ水素内に生成し、その分子とまわりの分子とのX+H_2→XH+H型のトンネル反応過程のダイナミックスを高分解能レーザー分光法を用いて追跡することにより、化学反応における量子効果の詳細を解明し、量子力学固有のトンネル現象が化学反応に寄与する役割を実証的に明らかにすることにある。本年度は主として実験を遂行するために必要な実験手法の確立を目指した。トンネル反応速度は活性化ポテンシャルの高さと形、及び始状態と終状態のエネルギーの相対関係できまると考えられている。その点を実験的に明らかにするためには、反応の実効的なポテンシャルを外部から制御して反応速度の変化を観測する必要がある。固体水素を媒質に用いた場合、結晶の温度及び圧力を変化させることによって、反応の実効的なポテンシャルを外部から容易に制御することができる。そのために、まず0.5-10Kにおけるトンネル反応速度の温度依存性を調べられる様、0.5Kまで系を冷やすことのできる光学用^3Heクライオスタットを設計・製作した。また、圧力については外部からのガス圧のコントロールによって0-100気圧の間の圧力を変化する事ができる光学セルを製作中である。またこれらの装置開発と並行して、メチルラジカルおよびその重水素化物が水素分子と反応する系について、トンネル反応速度の量子準位依存性を調べるために、光によって振動励起させたときのトンネル速度を観測した。その結果変角振動を励起することによって反応速度の増大が起こることを示唆する兆候を得た。現在さらに励起波長依存性などの詳細なデーターを集積中である。
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