芳賀矢一の留学日記や近代国文学の提唱に関する文献を精査し、芳賀がドイツ文献学をどのように受容したのかを検証する一方で、芳賀が主として依拠したアウグスト・ベックやフンボルトの文献学が本来どのようなものであったのかを、原典および研究文献によって明確に把握することに努めた。とくに今年度の最大の収穫は、AUGUST BOECKHのENCYKLOPADIE UND METHODOLOGIE DEE PHILOLOGISCHEN WISSEN-SCHAFTENを精読し、ベックの文献学からディルタイの解釈学への流れがつかめたこと、および、そのような流れが、芳賀には十分に受け止められていなかったことがほぼ明らかになったことである。ここに得られた知見は、近代国文学が隘路に陥らざるをえなかた過程を明らかにし、新しい古典学(古典文献学)を樹立するうえで、きわめて有力な手がかりである。ただし、この成果を論文化するのは来年度の課題とする。今年度の論文業績としては、ディルタイの解釈学を源氏研究に生かすことを試みた「霊験譚」を公表した。また、本研究の研究目的の重要な柱の一つである、新しい古典教育のありかたを模索する試みとして、調整班B03「近現代社会と古典」のメンバーと数次にわたって「古典教育研究会」を開催し、「日本の高等学校における古典教育の現状と問題点-新しい古典学と古典教育をめざして-」と題して研究発表を行った。
|