所謂明嘉興藏所収典籍の刻印刊行の事情を個別具体的に、検討考察することを通して、広い意味での明末清初期の中国の社会事情、思想状況、その中での出版事情を窺い、かつ、従来の書誌学的常識や目録学的常識を再検討することを目的に、本研究を進めているが、具体的成果としては、「所謂万歴嘉興藏の経の刊刻と馮洪業の助刻活動」「嘉興續藏所収大方広佛華厳経疏演義鈔の較刻と葉祺胤」の報告第二篇を作成した。馮洪業も葉祺胤も浙江省北東部の地方名士と認められるが地方志に零細な記事が見出されるだけで、全国的には無名同然の存在である。ともに士人層と属する人物として儒学に素養があり専著も残しているが、同時に仏教にも深い関心を寄せ晩年は居士として生活する中で、大藏経の刻印事業に主体的に関与したようである。喜捨、募金、校定、句読など身命、学識、財産を注ぎ込んで大藏経の普及版の刊刻事業を推進した彼等の活動を通して、明末清初期江南地方における出版文化の具体的状況の一端を窺うことができる。
|