本研究の目的は、新たながん化機構の解明を念頭に、ある種の白血病に関連したクロマチンリモデリング因子TAF-Iと核膜孔タンパク質CANの融合タンパク質(TAF-I-CAN)の機能を明らかにすることにある。 TAF-I-CANを導入したNIH3T3細胞は、低血清培地での増殖能、軟寒天培地での増殖能、ヌードマウスへの接種による腫瘍の形成能を示した。巨大な複合体に含まれるTAF-Iβ-CANは、内在性のTAF-IあるいはCANと相互作用していないことから、これらに対してドミナントネガティブ体としては機能しないと考えられた。TAF-IβやCAN自身とは異なるTAF-Iβ-CANの細胞内局在と複合体形成は、CANのFGリピートに依存していることが明かとなった。免疫染色法及び免疫沈降法により、CANのFGリピートに結合能を持ち核-細胞質間巨大分子輸送を担うhCRM1がTAF-Iβ-CANと結合し、本来とは異なる細胞内局在を示すことが明かとなった。さらに、TAF-Iβ-CAN発現細胞ではhCRM1の標的であるNESタンパク質の核内への蓄積が観察された。従って、TAF-Iβ-CANのCAN活性が本来CANが機能する場所とは異なる部位で発現することで正常細胞では観察されない核-細胞質間の巨大分子輸送の異常が起こる可能性が見いだされた。TAF-Iに加えて我々が同定した酸性分子シャペロンに分類されるTAF-II、TAF-III、およびRAF-2の機能解析を行った。TAF-IIIは既報のB23/nucleophosminであり、複数種の血球細胞がんの原因と考えられている染色体転座領域に見いだされる遺伝子にコードされている。TAF-Iβ-CANにつぐクロマチンシャペロンが関わる転座型がん遺伝子の2番目の例である。
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