本研究の目的は、未分化骨髄性白血病に関連したクロマチンリモデリング因子とヌクレオポリンの融合遺伝子による細胞がん化機構を明らかにすることにある。その範疇の融合遺伝子として、TAF-I (Template Activating Factor-I)β/SET-CANおよびDEK-CANを対象に研究をすすめた。TAF-Iβ/SETとDEKはクロマチン制御に関連する因子であり、CANはNup214とも呼ばれる核孔複合体のコンポーネントである。転座型TAF-Iβ/SET-CANを導入した細胞では、細胞の形質転換が観察され、ヌードマウスへの接種により腫瘍形成が認められた。TAF-Iβ-CANは主に核でドヅト状の局在を示した。CAN結合能を持つhCRM1はTAF-Iβ-CANと結合し、本来とは異なる細胞内局在を示した。これに伴い、hCRM1の標的であるNESタンパク質の核外輸送の異常による核内への蓄積が観察された。TAF-Iβ/SET-CANの導入により形質転換された細胞でのTAF-Iβ/SET-CANの発現をsiRNAによりノックダウンすると、足場非依存的細胞増殖能は失われたが低血清培地での細胞増殖能の一部は残った。従って、TAF-Iβ/SET-CANはこの2つの形質転換能へ独立な経路で関与していると考えられた。TAF-Iβ/SETはtrxGの一員であるMLLと相互作用し協調的にMLL標的遺伝子の発現制御に関わっていることが示された。TAF-Iβ/SETの機能的ホモログであるTAF-II/NAP-1の細胞質-核間シャトリングがM期の進行に必要であることが示された。これらと同族因子であるTAF-IIIは、B23とRNAからなるRNP複合体としてクロマチン制御活性を発現することが示された。TAF-IIIの機能阻害実験から、TAF-IIIが細胞内でクロマチン制御を通じて、rRNAの生合成、ひいては細胞の増殖速度の制御に関与している可能性が示された。
|