研究概要 |
本研究の主たる目的は立体構造を有する金属錯体と他分子との相互作用の様式と安定度を調べ,分子認識の要因を明らかにすることにある.生体系での分子認識はDNAに見られる核酸塩基間の特異的結合やタンパク質間の特異的会合のように官能基間の水素結合や芳香環-芳香環相互作用によるところが大きい.そこで,アミノ酸,ペプチド,金属タンパク質,ヌクレオチドなどを含む系について錯体および会合体の合成と構造決定,分子間相互作用について研究を開始した. 側鎖に荷電基または芳香環を有するペプチド銅(II),白金(II)錯体を中心に合成を行い,いくつかの単核および複核錯体を結晶として単離した.すなわちチロシン,メチオニン,アルギニンなどのいずれかを含むジペプチドを用いて錯体を合成し,ピラジンまたは4,4'-ビピリジンなどを架橋配位子として各錯体ユニットを連結して複核錯体とした.これらについて構造解析を行っている.また,チロシンをN末端に有するジペプチド銅錯体ではpH9-10においてフェノキシド架橋複核構造が形成され,その安定性は側鎖基に依存することを見出した.一方,アミノ酸含有銅(II)錯体などについてCDスペクトル,溶液平衡の解析などから分子内でのスタッキング相互作用の存在を確立すると共に,中心金属イオン近傍での芳香環の挙動と反応性への影響をモデル錯体系について明らかにした.また,オスミウム(II)錯体とグルコースオキシダーゼ(GOx)との電子移動反応を詳細に調べ,錯体構造とGOxとの相互作用様式について知見を得た.すなわち還元型GOxから各種オスミウム(III)錯体への電子移動はメチル基を有するポリピリジンあるいはイミダゾールを配位子として有する錯体で大きくなることが判明し,これらが電気化学反応におけるメディエータとして優れていることが示された.この結果については目下論文を投稿中である.
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