研究概要 |
本研究は明確な立体構造と側鎖に相互作用基を有する銅(II),白金(II),パラジウム(II)などの錯体を用いて,他分子との会合体形成能とその構造特異性を明らかにし,生体系での分子認識および化学系における分子の自己組織化に関する基本的情報を得ることを意図した.このため,昨年度に引続いて相互作用基を有するジペプチドと芳香族配位子を有する錯体を開発し,ヌクレオチド,芳香族カルボン酸などとの分子間相互作用を追究した.一方,認識部位を増強するため架橋配位子を用いて複核錯体の合成も行った. 1.生体系での情報伝達物質によく見出されるチロシン,水素結合に重要な役割を果たすアルギニン,金属配位能を有するメチオニンなどを含むジペプチドを用いて,白金(II)錯体を各種合成し,これらのうち,アルギニルグリシン含有錯体ほか数種類の白金(II)錯体の構造をX線結晶構造解析により明らかにした.白金(II)-ペプチド錯体は合成が困難であり,これらはいずれも新規物質である.合成した錯体についてAMPなどのヌクレオチドとの相互作用を各種スペクトル法によって調べ,^1H NMRスペクトルから芳香環スタッキングによる会合体の生成が認められた.また,合成した配位子について分子内相互作用による銅(II)錯体の安定化を明らかにした. 2.タンパク質を含む系について、タンパク質と低分子錯体との相互作用を電子移動反応に基づいて追究した.フェナントロリンなどを配位子とするオスミウム(II)錯体を用い,酸化型グルコースオキシダーゼとの酸化還元については昨年明らかにしているが,その展開としてグルコースオキシダーゼと銅タンパク質プラストシアニンなどとの間の電子移動がどのような錯体によって可能となるかを,様々な系を組み立てて調べた.この研究はまだ試みの段階である.
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