研究概要 |
金属錯体では様々な分子が金属イオンの周りに配位され,配位子間での弱い相互作用が可能となると共に,錯体と他分子との会合体形成も期待される.本研究では相互作用基を有する単核錯体と複核錯体の合成ならびに他分子との会合体形成を明らかにし,分子認識や分子の自己組織化に関する基本的情報を得ることを意図した.本年度は複核錯体などの合成を行い、錯体-他分子間会合体の性質を明らかにした. 1.エチレンジアミン四酢酸(EDTA)の炭素鎖を変えた誘導体L(炭素鎖長n=2,3,4)の両端に白金(II)-1,10-フェナントロリン(phen)錯体を結合させた錯体を合成した.結晶構造の解析から,錯体は1個のLに2個のPt(phen)錯体が結合した複核構造[Pt_2(phen)_2(L)]をとり,結晶中で分子内または分子間スタッキング相互作用をしていることが判明した.L(n=4)の錯体は2個のPt(phen)面間距離が7Åの空間を形成しており,ここに他の平面分子を捕捉する可能性が示唆された.インドール誘導体との反応を^1H NMRなどにより調べ,スタッキングによる会合体形成を結論した. 2.これに対して,L(n=5)とphenを銅(II)と反応させたところ,2種類の銅(II)錯体の会合体[Cu(phen)_3]_2[Cu_2L_2]が得られた.同種の会合体[M(phen)_3]_2[Cu_2L_2]はM=Fe(II),Ru(II),Co(II)などについても単離された.いずれの会合体においてもphenとLのメチレン鎖間のCH-π相互作用が分子間会合の原動力となっていることが判明した.これらは弱い相互作用による錯体構造誘導と自己組織化の結果である. 3.フラビン補酵素FMNは[Pt(phen)(A)](A=アミノ酸)と会合体を形成し,その酸化還元電位は陽極側にシフトした.一方,Pd(II)と直接結合したインドール環は1電子酸化により容易にラジカルを与えることが判明した。これらの事実は金属イオンとの相互作用により芳香環の反応性が制御されることを示している.
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