研究概要 |
上咽頭癌の頸部転移機序を分子生物学的に解明し、それを予防する治療法を開発する目的でEBウイルスの唯一の発癌遺伝子といわれるLMP1発現と相関する転移関連遺伝子群のスクリーニングをおこなった。その結果、細胞外基質破壊、細胞接着、血管新生、細胞運動能亢進に関与する転移関連遺伝子群が明らかになった。次いでLMP1によるMMP9の発現誘導をI-κBが阻害することを明らかにした。つまり、NF-κBシグナルを抑制することでLMP1によるMMP9の転写が抑制されることを証明した。しかしLMP1遺伝子発現の直接制御は難しく、LMP1下流のシグナル伝達経路を遮断することで癌の浸潤・転移を抑制する分子標的治療の可能性について検討を加えることにした。最初に、I-κBキナーゼ(IKK)を不活化し、NF-κBの活性を抑制することが知られているアスピリン及びその関連物質であるサリチル酸ナトリウムについて検討した。その結果、アスピリンはLMP1導入後のMMP9の発現を抑制することをゼラチンザイモグラフィーで観察した。ゲルシフトアッセイの実験から、アスピリンはLMP1によるNF-κB, AP-1の活性を抑制したことから、MMP9の発現抑制はLMP1下流シグナル伝達経路の抑制によるものであると考えられた。また、MMP9の転写に関するプロモーターの活性を調べたCATアッセイでも、アスピリンによる抑制が証明されたので、ヌードマウスを用いて、臨床応用への可能性を検討した。 形質転換した子宮頚痛由来C33A上皮系細胞とLMP1発現C33A細胞を作成し、それぞれの細胞をヌードマウス背部へ皮下注射により移植した。次いで腫瘍形成ヌードマウスヘアスピリンを3日間、皮下注射した。この移植腫瘍からウェスタンブロット用及びゼラチンザイモグラフィー用細胞抽出液を採取し、それぞれの材料においてLMP1及びMMP9の誘導を確認した後、アスピリン投与有無での両者の発現の差を比較検討した。結果は期待どおりアスピリンはそれらの発現を有意に抑制し、上咽頭癌の頸部転移抑制のための分子標的療法の可能性が証明できた。
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