チンパンジーの皮膚組織約10グラムを、バイオプシーにより採取し、定法によりRNAを抽出した.これを用いてオリゴキャッピング法により遺伝子の全長を含むcDNAライブラリーを得た。対照試料として、敗血症で死亡した個体から採取した脳、肝臓などの臓器由来のcDNAライブラリーも作製した。皮膚のcDNAクローン約3500について、その5'端からシークエンシングを行った。この結果、約1800配列(52%)については、ヒトの登録配列(RefSeq)に相同なものが見い出された。また、34%はヒトESTデータ、12%はヒトゲノム配列概要に対するものが見い出された。機能面から解析すると、ケラチン系遺伝子が多くクローニングできたことが解る。これは脳など他の臓器と対比をなす。また、約70配列が既存のデータベースとヒットしないもので、新規遺伝子の候補として全長塩基配列を解析した。解析途上でインターネット上に登録があったり、ゲノム配列であることが分ったりして、最終的には1個の新規遺伝子候補の配列(全長1600bp)を得た。これはヒト皮膚では極めて発現が弱いものと考えらるが、RT-PCRにより霊長類一般にみられるものであることが分った。げっ歯類などでの発現は見られていない。その塩基配列から予測されるアミノ酸構造を解析すると、興味あることに、チンパンジー、ボノボ、カニクイザル、リスザル、メガネザルでは膜貫通部をもつ蛋白であるのに対し、ヒトでは膜貫通部分を欠いていると推測される。皮膚にみられるヒト特異性を担う遺伝子のひとつであるとも考えられるので、さらに解析を進めている。
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