研究概要 |
現在、チンパンジーについてはゲノム配列のシークエンシングが国際プロジェクトとして進行している。しかし、転写・発現している配列についての情報はほとんどない。本研究では、包括的にチンパンジーの遺伝子配列を解析する目的のもと、2頭のチンパンジー(Pan troglodytes venus)の皮膚と脳の組織を試料として、mRNAのコピーであるcDNAをクローン化し、ライブラリーとして大量に保存した。ヒトと相同な1,652遺伝子のうち、皮膚由来が937遺伝子、脳由来が928遺伝子得られたが、重複しているのは233遺伝子のみであり、組織特異的な発現傾向を示している可能性が大きい。皮膚からはvimentin、decorin、keratin関連遺伝子などが組織特異的に多く得られた。ひとつの遺伝子につき3つ以上のクローンの配列が得られている場合に、コンセンサス配列(共通配列)を作製して配列比較をおこなった。脳由来を含め全1,652遺伝子から226遺伝子のコンセンサス配列を得ることができた。対応するヒトの遺伝子配列と比較して、5'-cDNA全体、5'端の非翻訳領域(UTR)、コード領域(CDS)、コード領域を翻訳したアミノ酸配列について一致度(identity)を計算した。その結果、全体で99.3%、5'-UTRで98.79%、CDSで99.42%、アミノ酸配列では99.44%、という値が得られた。配列の比核解析の過程で塩基・アミノ酸単位のギャップや、数十塩基にわたって種間で大きく異なる配列があることが確認されている。これらは遺伝子配列の種差だけでなく、オルターナティブ・スプライシングや一塩基多型(SNP)などをも含んでいると考えられる。今後、種間で遺伝子配列より詳細な比較解析をおこなうには、遺伝子ごとに配列のダイナミズムに考慮して解析していく方法論を検討する必要があるだろう。
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