研究概要 |
本研究で対象に選んだタバコ属はナス科の植物であり,南アメリカに37種,オーストラリア・南太平洋に20種,アフリカに1種が分布するという典型的な南半球分布を示す.本研究の対象に選んだ理由はその分布パターンのみからではなく,タバコを始めとする本属の数種が遺伝学や生理学など多様な分野の研究材料としてよく利用されているため,その生物学的特性について理解が進んでいる点を重要視した.本研究は南半球における植物進化学的・地理学的研究で遺伝学的,生態学的,生理学的バックグラウンドまで踏込み,より詳細な種分化と分布拡大・変遷との関わりの解析を試みる. 本年度はオーストラリア・アフリカ産のタバコ属植物の解析を行った.オーストラリアに現地調査に行き採集した試料および(株)日本タバコから譲渡を受けたアフリカ産のタバコ属植物において葉緑体DNAのmatK遺伝子の塩基配列データによる系統解析を行った.最尤法および最節約法を用いた系統樹作成の結果,オーストラリア・アフリカ産が単系統群を形成すること,この単系統群では変異が非常に少ないことが明らかになった.この結果は,1)オーストラリア・アフリカ産タバコ属植物は単一の南米起源の祖先種から進化した,2)アフリカ産のNicotiana africanaはオーストラリアからアフリカに分布を広げた,3)オーストラリア産のタバコ属植物の種分化は最近,急速に起こったことを示唆する.さらに現在,一核遺伝子による系統解析を行っている.
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