本年度は、4年間の研究期間の2年目に当たる。本年度は2つの研究方針を立て実施してきた。ひとつは、昨年度に引き続き、貴重な歴史的環境の存在する地区に実際に出向き、資料収集を行い、広く歴史的環境に関する情報を集める作業であり、もうひとつは、広島県福山市靹の浦の伝統的な祭りとそれを支える人々に焦点を絞って深く調査を行うことであった。前者の作業から、歴史的環境は探せばどこにでもあるもので、それが見えやすい形になっているかどうかの違いにすぎないことや、こうした歴史的環境を大事に思い、ボランティアでそれを広く伝えようとしている人がたくさんいることが把握できた。「歴史的環境とボランティア」という新たな研究テーマも見えてきた。 他方、後者の作業から得た知見は以下のようなものである。靹には、重要な伝統的な祭事が3つある。旧暦1月に行われる御弓神事、7月に行われるお手火神事、そして9月に行われる秋祭りである。本年度は、このすべての祭りに加え、6月に行われた茅の輪神事も観察調査した。それぞれ質の異なる祭りであり、その現代的な変化の程度も異なる(たとえば、御弓神事は形式的にも実質的にも男性の祭り、お手火神事は実質的な男性の祭り、秋祭りは女性も参加できる祭りであること)が、いずれも地元の人々が自分たちのために行っている祭りであることがよく理解できた。こうした祭りの存在が、町の人々にアイデンティティと連帯感を与えていることは間違いないことが確認できた。また、伝統的行事の継承には、伝統的な技術の継承が不可欠なことを、具体的な形で知ることができた。
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