今年度は、日本中世における紛争解決のあり方を実証的かつ総合的に研究するための前提件業として、昨年度の成果を踏まえて、主に『鎌倉幕府裁許状集』下巻のスキャナ入力によるテキストファイル化件業を進め、これをほぼ完成させた。従って、研究代表者は、『同』上巻に関するデータとあわせて、そのDBとしての総合検索システムおよびその公開方法等の検討件業、および、入力データに関する最終的な点検件業を急いで進めているところである。また、この作業と並行して研究代表者は、武樹臣著『中国伝統法律文化鳥瞰』の翻訳を完成させ、植田訳『中国の伝統法文化』として公表した。 他方、研究分担者は昨年度に引き続いて、鎌倉幕府の裁判と和与に関する実証的研究を進めていく中で、私和与関係史料の網羅的な収集を行った。収集した史料群は、私和与に関するこれまでの理解を再検討するための有為な素材という位置付けにのみ止まるものではなく、当該和与に関する訴訟両当事者および裁判所の認識の一端を示し得るものでもある。研究分担者は、これらの史料に関する検討件業の見通しについて口頭報告の磯会を得た(西村「鎌倉幕府の裁判における和与と私和与のあいだ」、法制史学会近畿部会第369回例会、2003年7月20日、於同志社大学)。また、この際に検討した「近衛家文書」については、その検討成果を公にする予定である(西村裏面記載論文)。 これに加えて研究分担者は、「鎌倉幕府裁許状」に関する上記成果に基づき、裁判関係文書の網羅的整理および検討件業を開始している。この成果の一部は、西村「日本中世の裁判手続法史研究とIT的発想の活用について」(法制史学会第51回研究大会、2003年10月5日、於名城大学)と題して口頭報告を行うとともに、「研究成果報告書」の中に、「本間美術館所蔵「市河文書」所収、鎌倉幕府裁判関係文書に関する基礎的研究」として纏める予定である。
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