本研究においては、日本中世における紛争解決のあり方を実証的かつ総合的に研究するための前提作業として、主に『鎌倉幕府裁許状集』上・下巻のスキャナ入力によるテキストファイル化作業を進め、これをほぼ完成させた。 そこで、研究代表者は、この成果を踏まえた上で、さらに、そのDBとしての総合検索システムを構築すること、および、その公開に向けて効率的な作業方法を獲得すること、などの課題を、早期に実現するべく検討作業に取りかかっている。 また、この作業と並行して研究代表者は、前近代中国における法文化の全容解明に取り組んだ意欲的な書物である、武樹臣著『中国伝統法律文化鳥瞰』の翻訳を完成させ、植田訳『中国の伝統法文化』(九州大学出版会、2003年9月)として公表した。これは本研究の重要な副産物だったと考えている。 つぎに、研究分担者は、鎌倉幕府の裁判と和与に関する実証的研究を進めることが出来た。第一に、和与関係史料の網羅的な収集を行った。第二に、裁判外の紛争処理手続において行われた和解(私和与)に関する史料についても、網羅的な蒐集を行うとともに、整理を試みた。この作業によって、裁判外において成立した和与に関するこれまでの伝統的な理解について、これを再検討するための有意な素材が提供されることになるであろう。第三に、この際に検討した「近衛家文書」については、その史料研究を行った成果を公けにしている。 以上に加えて研究分担者は、「鎌倉幕府裁許状」に関してデータを総合的に整理していく必要から、個々の裁許状に関係する裁判関係文書の網羅的整理および検討作業を開始している。また、本研究の成果として公表するには至らなかったけれども、本間美術館所蔵「市河文書」(いちかわもんじょ)および東京大学法学部法制史資料室所蔵「周防國与田保文書」(すおうのくによだのほもんじょ)についても、調査の成果を、早期に公けにする予定である。
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