非線型双曲型偏微分方程式に対する初期値問題、特にその大域理論について研究した。この課題がまだ解決されていない理由の一つは『古典解が大域的に存在しない』、即ち『解に特異点が現れる』為である。従って我々の問題は『特異点を越えて解を延長すること』、即ち『特異点を含む弱解を大域的に構成すること』である。これまでの得られた数学的理論を検証した。古典的理論は概ね粘性法による。これは双曲型方程式を放物型方程式で近似するのである。双曲型と放物型では方程式の性質は大変異なる。従って放物型方程式の解で近似すれば、その極限関数には当然放物型方程式の性質が反映される。その結果、弱解の或る性質は双曲性に反するのではないかと思い始めた。この様な意味から我々は現在、『双曲系に対する粘性法』に疑問を感じている。一方、我々の方法は偏微分方程式を"cotangent space"の中にまでもち上げ最初の偏微分方程式をPfaff問題として定式化する。それがなめらかな大域的解をもつ場合がある。それを"幾何学的解"と定義する。幾何学的解は特異点を持たないので古典理論に従って延長することが出来る。この様にして得られた解を基空間に射影すると多価解が得られる。次に物理的条件を満たす値を唯一つ選び"特異点を含んだ弱解"を構成する。これが我々のプログラムである。従って我々の手法は方程式を本質的には変えていないので、我々の大域理論は存在意義をもっていると信じている。この視点から過去の諸理論の検証を行った。今年度は研究集会において2、3度、我々の検証、及び疑問を提出した。『数学的には受け入れ易い手法である』というのがこれまでに我々のところに届いている感想である。
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