1.ニュートリノの磁気能率が磁場と相互作用を起こしてニュートリノ混合に寄与する場合の取扱はこれまで非常に簡単な場合にしか行なわれていなかったが、2001年の木村-高村-横枕による一定密度の場合の三世代振動確率に対する厳密な定式化を拡張することにより解析的に表すことに成功した。特に従来の方法では振動確率の中のT非保存の部分を求めることは不可能であったが、それも解析的に表すことが出来た。その形は磁場がない時の表式(すべての混合角が非零であることが必要となる)と違う寄与が含まれ、磁場による混合があるために実質的にT非保存が起こることがわかった。2.原子炉実験のカムランドが2002年12月に反ニュートリノの欠損を発表したことにより太陽ニュートリノ問題が大混合角解として解決されたが、その次の問題として第三番目の混合角θ_<13>の測定が脚光を浴びてきた。その一つとして最近有望視されるようになった原子炉の短基線実験についての現象論を展開した。まず柏崎・刈羽原発から1.7kmの距離で技術的に可能であると考えられる系統誤差0.8%、統計誤差0.8%が実現した場合のsin^22θ_<13>の感度が約0.012であることを示し(測定誤差が約0.012)、次に将来の本格的な長基線実験で唯一現実的なJPARC(旧JHF)加速器実験で予測される実験精度と準定量的に比較した。さらに加速器実験で起こると予測されているパラメーター縮退の問題に対して原子炉実験が加速器実験と相補的な役割を果たすことを示した。その際、従来の八重のパラメーター縮退の表面的だった理解をずっと具体的な理解にまで深めることに成功した。今年度後半にカムランドの結果が出てニュートリノの三世代振動の描像が収束し、ニュートリノ振動研究の興味が太陽・大気ニュートリノから長基線実験へとウエイトが移ることとなり、来年度の本研究の進展が期待される。
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