本年度は、YSZ/Si界面において金属Zrが基板Si中に拡散するか否かを原子層レベルの分解能を有するXPS、HR-RBS法により詳細に検討した。 まずXPS法で約5mnのYSZ薄膜組成の深さ方向プロファイルを測定した。YSZ膜に対応した酸化Zrのピークが現れるが、Si基板付近になるとそれが消え金属状態のZr信号に移行する様子が観測され、ZrがSi基板中に拡散していることを示す結果となった。次にHR-RBS法により深さ方向プロファイルを測定したところ、Zrの拡散は見られず、界面には極薄い酸化Si層が見られ、XPS法の結果と矛盾することが判った。この違いは、HR-RBS法は非破壊分析法であるので信頼性が高いことを考慮すると、XPS法では、Arイオンによるスパッタエッチングを繰り返して深さ方向プロファイルをとるため、Arイオン衝撃により酸化Zr分子が解離し、Zr原子のみがSi基板中にノックオンされていたためであるといえる。 酸化Zrの生成熱は酸化Siのそれよりも大きく、Zrは酸素より吸着しやすい。事実、800℃程度の高温の条件下で金属Zrを酸化Siに作用させると酸化Siが還元されることがわかっている。結局、酸化ZrはSi基板上に安定に存在でき、Si中にZr原子が拡散しないことが明らかとなった。
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