研究概要 |
北海道十勝平野(淡色黒ボク土)において,省耕起栽培,減農薬散布(局所施用または低濃度散布),減化学肥料施用(堆肥施用)の三つの技術を取り上げ,それぞれの慣行技術と比較すると共に,組合せによる効果を調査した. ダイズとコムギでは,省耕起において初期生育の促進と収量の増加が認められた.省耕起では土壌への水の浸潤速度が遅く窒素の溶脱が起こりにくかったこと,及びリン等の養分が土壌表層に蓄積し吸収が促進されたことが原因と考えられた.省耕起の優位性は,減農薬散布と組み合わせた場合にも見られたが,堆肥施用と組み合わせた場合には,窒素供給能の低さが問題となった.テンサイでは,根の生育,収量および糖収量に処理による差は見られなかった.堆肥施用下では地上部の生育が劣っていたが,より薄い葉を広げることで根の生育が支えられていた.省耕起と堆肥施用の組合せは有効であると考えられたが,省耕起と減農薬の組合せでは土壌水分の増加と不完全な病原菌処理により病害が問題となることが示唆された. 雑草の種数及び多様性指数が堆肥施用で増加する傾向が見られた.これは,堆肥施用では持ち込み種子があることに加え,化学肥料に比べて雑草の生育及び繁殖が抑制されるため,特定の種が優占することが少なくなるためと考えられた.さらに多様性指数は省耕起と組み合わせることで増加する可能性が示された. 省耕起と堆肥施用の組合せによって,テンサイの栽培下でダニの生息密度が,コムギの栽培下でダニを含むすべての土壌小型節足動物の生息密度が増加した.省耕起のみでは生息密度の増加は認められなかったことから,省耕起の土壌小型節足動物に対する効果は,堆肥として持ち込まれた有機物をより表層に蓄積することに由来すると考えられた.省耕起と堆肥施用の組み合わせの下での土壌有機物の蓄積は食料供給源となるだけではなく,土壌の水分条件の改善や乾燥密度の低下によって土壌小型節足動物に好適な環境をつくると考えられる.
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