研究概要 |
エチレンは植物ホルモンとして植物の成長,分化の過程で必須の役割を有する。とりわけ園芸作物の収穫後の生理において,老化や成熟機構に深い関わりを有する。一方植物組織は傷害や微生物の感染による病害などのストレスにより顕著にエチレンを生成する。(1)ブロッコリー小花(花蕾)の老化におけるエチレン生成と作用およびその制御:ブロッコリーは小花がまだ緑色のがく片に被われ,緑色の未熟な段階で収穫される。ブロッコリーの小花は収穫後常温で急速に老化が進行し,クロロフィルが分解し黄化する。高濃度に存在するアスコルビン酸も急激に減少する。ブロッコリーを収穫する際に茎を切断するが,その傷害が小花の老化にどのような影響を及ぼすかを研究した。小花の老化の進行は,小花で生成されるエチレンにより促進される。ブロッコリーを収穫した際に,茎の傷害組織でエチレン生成が著しく高められた。傷害によりACC合成酵素の活性およびその遺伝子発現が促進され,ACCの生成が顕著に増大した。ここで生成されたACCおよび(あるいは)エチレンが小花に移動して,ACCはそこでエチレンに転換して,エチレンがACC酸化酵素の遺伝子発現を誘導しACC酸化酵素の活性を高め,エチレンの生成を促進するものと結論した。アスコルピン酸の分解にエチレンは直接関与してはいなかったがアスコルビン酸の代謝に関わる酵素の活性や遺伝子発現を研究した。(2)黒斑病菌に感染したサツマイモ塊根組織におけるエチレン生成とその機構:サツマイモ塊根は黒斑病菌に感染すると急速にエチレンを生成する。その生成経路は高等植物に普遍的に見られるメチオニン-ACC経路ではないことを明らかにした。その生成機構には原形質膜のリン脂質から遊離した不飽和脂肪酸(α-リノレン酸)が,リポキシゲナーゼにより過酸化を受け,過酸化物が銅イオンと活性酸素の存在下でラジカル反応による分解を受けて生成するものと推定した。
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