大腸菌のγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)遺伝子は、SD配列に続き、25アミノ酸よりなるシグナルペプチド、365アミノ酸よりなる大サブユニット、190アミノ酸よりなる小サブユニットが1つのORFの中にコードされている珍しい構造をとっており、1本のポリペプチド鎖として合成された後、Gln-390とThr-391の間が切断されて、大小2つのサブユニットにプロセスされると考えられた。最近、プリカーサーがプロセッシングを受けて成熟し、しかもB鎖のN末アミノ酸残基の側鎖が酵素の活性中心(カルボニル炭素をアタックする求核原子)であることが知られている3つのアミドヒドロラーゼの活性中心付近の立体構造が酷似していることが分かり、構造上のスーパーファミリーとしてN-terminal nucleophile hydrolases(Ntn-ヒドロラーゼ)と呼ぶことが提唱されている。これらは前駆体として翻訳された後、自己触媒的にプロセッシングすると考えられている。これまで、報告者が得た様々なデータからGGTもNtn-ヒドロラーゼに属するのではないかと考えられ、GGTのプロセッシングも自己触媒的に起こるのではないかと予想された。GGTの大サブユニットのN末にマルトース結合タンパク(MBP)を融合させるように設計したプラスミドを用いてMBPを大サブユニットのN末に融合した前駆体酵素分子を精製単離することに成功し、この前駆体を用いた場合は、in vitroで自己触媒的に正常にプロセッシングを起こし、生成した成熟型MBP-GGTは酵素活性も持つことを確認した。また、T391SおよびT391C変異酵素がプロセッシング能は持っているが、その反応速度が極めて遅くなっていることを利用し、それらの前駆体を精製しin vitroの系でプロセッシングが自己触媒的におこることを確認した。この自己触媒反応はプロテアーゼ阻害剤やGGT特異的阻害剤によって影響を受けなかった。MBP-GGTやT391Sの前駆体のプロセッシング反応にはSH試薬は影響を及ぼさなかったが、T391Cの前駆体のプロセッシング反応はpCMBによって、完全に阻害されたことからプロセッシング反応の活性中心もThr-391の側鎖であることが判明した。
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