研究概要 |
本研究は、ヒト血管系において過酸化水素(H_2O_2)が内皮由来過分極因子(EDHF)の本体であるという我々独自の仮説を検証するものである。血管内皮はプロスタサイクリン(PGI_2)や一酸化窒素(NO)に加えてEDHFを産生・遊離すること、およびEDHFはヒトにおいても血管系のホメオスターシスを維持するのに重要であることが知られているが、その本体は依然として不明である。我々は、マウス・ブタ血管系においてH_2O_2がEDHFの本体であることをすでに明らかにしている。本研究は、ヒト血管系においても同様な機序が存在することを明らかにし、心血管病の新しい臨床的治療の端緒となすことを最終的な目的としている。 本年度においては、腹部手術時に採取したヒト腸間膜動脈において、過酸化水素がEDHFとして機能していることを明らかにし、すでに論文として発表した(Biochem Biophyic Res Comm 290:909-913,2002)。簡潔に述べれば、等尺性張力検査において、ヒト腸間膜動脈はPGI_2やNOの阻害下でもBradykininにより拡張応を示し、これはEDHFによるものと考えられた。この拡張反応は過酸化水素の阻害薬であるcatalaseで抑制されたこと、H_2O_2投与でも同様の拡張反応を生じたこと、gap junctionの阻害剤である18α-glycyrrhetinic acidで部分的に抑制されたことなどから、ヒト血管系においても過酸化水素がEDHFとして機能しており、その拡張反応の一部はgap junctionを介することが初めて示された。
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