研究概要 |
本研究の目的は,腸管の虚血再灌流後に,腸管局所と遠隔臓器において見られる臓器障害にnitricoxide(NO)産生がどのように関与しているかを検討することにある.全麻下にラットを開腹し,上腸間膜動脈を鉗子でクランプして,30分間虚血に晒す.肺障害を評価するため,Evan'sbluedye(EBD)を静注し,鉗子を除去して6時間の再灌流におく.再灌流後,再度麻酔下に採血及び肺を摘出し,homogenateしてEBDの濃度をspectrophotometerで定量する. 肺内に残留したEBD濃度を血中濃度に対する比で表し,これを肺障害の指標とした.阻血-再灌流群(I/R)と偽手術群(SHAM)の値はそれぞれ,18.7±3.8(mean±SD)と6.6±2.6と,統計学的有意にI/R群での増加が認められた(p<0.001).これは,腸管の虚血-再灌流によって肺の血管透過性が増し,間質にタンパク成分が漏出して,肺水腫に陥っているものと考えられる.今後,組織学的検討を加えていく予定である. 本障害モデルにおける,NO産生の関与を検討するため,次にNO合成酵素(NOS)の阻害剤を投与し,肺障害の程度を比較した.再灌流直前に,inducibleNOS(iNOS)の選択的阻害剤であるaminoguanidine100mg/kgを腹腔内投与した.再灌流後に摘出した肺の残留EBD濃度が,血中濃度に対する比は9.6±3.3であり,I/R群のそれと比較したところ統計学的な有意差を認めた(ANOVA,p<0.01). 以上より,腸管の虚血再灌流後に生じる肺障害には,NO産生が関与しており,iNOSの選択的阻害が,肺障害を抑制しうる事が示された.今後,採取した各サンプル(血液,肺,肝臓,脾臓,腸)のNO代謝産物(NO_2,NO_3)濃度を定量し,阻血-再灌流刺激と,NOS阻害剤の効果について,さらに検討を進める予定である.
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