研究概要 |
本研究の目的は,腸管の虚血再灌流後に,腸管局所と遠隔臓器において見られる臓器障害にnitric oxide(NO)産生がどのように関与しているかを検討することにある.全麻下にラットを開腹し,上腸間膜動脈を鉗子でクランプして,30分間虚血に晒す.肺障害を評価するため,Evan's blue dye (EBD)を静注し,鉗子を除去して6時間の再灌流におく. 本年は,本モデルでのNO産生を評価した.NOは生体内で半減期が短く,その定量は困難である.そこで,安定な代謝産物NO_2、とNO_3、濃度を再灌流後の血清と肺で測定した.NO_2/NO_3濃度はGreiss反応で定量している.阻血-再灌流群(I/R)と偽手術群(SHAM)で,血清NO_2/NO_3濃度はそれぞれ,38±16(mean±SD)μmol/Lと488±196μmol/Lと,統計学的有意にI/R群での増加が認められた(p<0.01).同様に肺組織中のNO_2/NO_3濃度は,I/R群とSHAM群とでそれぞれ,9.1±2.3μmol/gと18.5±10.9μmol/gとI/R群が高値を示した(p<0.05).これらは,腸管の虚血-再灌流によってNO産生力亢進したことを示している. 本障害モデルにおける,NO産生の関与を検討するため,次にNO合成酵素(NOS)の阻害剤を投与し,肺障害の程度を比較した.再灌流直前に,inducible NOS (iNOS)の選択的阻害剤であるaminoguanidine 100mg/kgを腹腔内投与した.再灌流後の血清NO_2/NO_3濃度は327±90μmol/Lで,I/R群のそれと比較したところ統計学的な有意差を認めた(ANOVA, p<0.01). 以上より,腸管の虚血再灌流後にはNO産生が亢進し,iNOSの選択的阻害で抑制し得ることが示された.今後は,採取したサンプル(肺,腸)の組織学的検討を加えてゆく予定である.
|