正常下垂体前葉組織と下垂体腺腫から抽出したミトコンドリアDNAを用いたlong PCRおよひ次失を有するミトコンドリアDNAの定量的な増幅を現在試みているが、これまでのところ残念ながら有意な結果は得られていない。これは主にミトコンドリアDNAが酸化的損傷を受けているためにPCRにより増幅されにくくなっているためと考えられている。さらに、欠失のないミトコンドリアDNAに由来する長い断片の増幅効率が低くなり、欠失のあるミトコンドリアDNAに由来する短い断片ばかりが増幅されてしまうものと考えられ、結果として確かに非機能性下垂体腺腫、特にオンコサイトーマや放射線治療後(すなわちミトコンドリアの障害の強いと考えられる腺腫)においてはミトコンドリアDNAの酸化的損傷が大きいことは窺えたが、現時点での欠失ミトコンドリアDNAの定量的評価は困難となっている。一方、加齢に伴うミトコンドリアDNAの損傷はこれまでに比べてより軽度であると考えられる。またミトコンドリアDNAの障害(欠失)とミトコンドリア機能(前年に検索した酸化還元酵素やSODの酵素活性)との関係に関しても、検体数は少ないものの少なくとも両者の間に明確な負の相関は認められていない。以上の結果からは、加齢を含めた酸化的ストレスにより腫瘍性・非腫瘍性いずれにおいても下垂体前葉細胞のミトコンドリアDNAが損傷をうけていることは間違い無いが、そのことが直ちにミトコンドリアの機能障害と関連しているものではないものと考察された。
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