ミトコンドリアの機能異常は虚血性神経細胞障害の進展に大きく関与しているが、ミトコンドリアを保護する事を目的とした治療法は試みられていない。ミトコンドリアが最初に機能障害を示す原因としてフリーラジカルの発生が上げられる。本研究は抗酸化物質の投与によりミトコンドリア機能を維持し、虚血性神経細胞障害を軽減することを目的としている。まず、内因性抗酸化物質であるGSHの濃度変化を調べた。虚血再灌流3時間後よりGSH濃度は低下し始め、24時間後には、海馬でコントロール値の68%、大脳皮質でコントロール値の78%、線条体でコントロール値の76%に達し、72時間後にはコントロール値に復した。よって、抗酸化剤投与による治療は、少なくとも虚血再灌流72時間以内に開始する必要があると考えられた。次にミトコンドリア酵素活性を測定するための予備実験として、NADH蛍光強度をin vivoで測定しミトコンドリアの酸化還元状態を測定した。また、一部のラットではNADHを酵素的サイクリング法で定量した。虚血開始後、膜電位の低下と同時にNADH濃度は200%にまで急激に上昇した。虚血中のNADH量はほぼ一定であった。その後再灌流により膜電位は正常に復したが、NADH濃度の低下は緩やかであり、コントロール値にまで回復するには数時間を要した。このことは、虚血再灌流早期のミトコンドリアの酸化還元状態は還元側に傾いていることを示している。また、ミトコンドリア内のTCAサイクルに比べ、電子伝達系の機能が低下していることが考えられた。
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