我々は網膜疾患の治療に使える網膜細胞移植の細胞源を検討するため、眼球内の種々の細胞が神経前駆/幹細胞の性質を持っているか、視細胞への分化能を持つかを調べた。 まず、ラット胎仔網膜(E18)の細胞を塩基性線維芽細胞成長因子を添加した神経幹細胞培養の条件で培養するとneurosphereと呼ばれる神経前駆/幹細胞の細胞塊が得られる。Neurosphereは分割継代することにより細胞を増やすことができる。また、我々が過去に報告したように脳由来の神経幹細胞は視細胞へと分化しないが、胎仔網膜由来神経幹細胞からは多数の視細胞が分化する。これらのことから移植用の多量の視細胞を得られると考えられたが、一方、継代回数を重ねるに従って、視細胞への分化は減少し、10回以上の継代では視細胞への分化能が消失していた。 そこで、次に網膜と同じ発生起源を持つ虹彩上皮細胞を神経幹細胞培養の条件で培養した後、分化誘導した。どちらもMAP5やニューロフィラメント陽性の神経細胞やGFAP陽性のグリア細胞には分化し、神経前駆細胞様細胞が得られることがわかったが、視細胞には分化しなかった。 次に虹彩から得られた神経前駆細胞にレトロウイルスを用いて視細胞に分化するために必要なホメオボックス遺伝子を導入したところ、視細胞のマーカーであるロドプシン陽性の細胞が多数得られた。毛様体上皮細胞からも同様の方法によってロドプシン陽性細胞が得られた。現在いくつかの視細胞特異的ホメオボツクス遺伝子の組み合わせによってロドプシン陽性細胞が得られることが判明しており、どの組み合わせがより真の視細胞に近いかを検討している。虹彩細胞から機能する視細胞が得られれば、患者本人から採取した細胞を用いて視細胞移植の治療ができる可能性があり、今後、サルやヒトの細胞で同様の結果が得られるかを確認する。
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