研究概要 |
生体の解毒機能、換言すれば生体防御機能を担う分子のひとつとして免疫系B細胞が産生する多様な抗体レパートリーがあげられる。今年度は、病原性大腸菌O157の産生するベロ毒素に対して中和活性を有するリコンビナントヒト型抗体の作製について検討した。ベロ毒素はVT1およびVT2からなるが、いずれのタイプに対する中和抗体が臨床上有用であるかを確認する目的で、VT1およびVT2の細胞表面受=容体グロボトリアオシルセラミド(Gb3)への結合様式の相違の有無について検討した。その結果、VT1及びVT2のGb3への結合様式が異なること、ならびにVT1はVT2と比較してより高い親和性でGb3に結合することを見いだした。この結果より、VT1中和抗体が臨床応用上有用であることが示唆された。血中VT1抗体価の高値であった健常人より、インフォームドコンセントに基づき、末梢血を採取した。末梢血リンパ球よりRT-PCR法により、抗体H鎖およびL鎖遺伝子を増幅し、ファージディスプレイベクターpComb3に挿入することにより、IgG_1,Kコンビナトリアルライブラリーを構築した。得られたライブラリーのサイズは、1.3×10^7cfuであった。次に、ファージディスプレイライブラリーをVT1に対して5ラウンドのパニングを行った結果、ファージタイターは2.2×10^7pfu/mlとなり、約26倍に上昇した。最終ラウンドのパニングで得られたライブラリーを可溶性Fab発現型に変換し、大腸菌に再導入後プレーティングした。プレートより50クローンを選択し、発現させたリコンビナントFabのVT1に対する反応性をELISA法により検討した結果、15個の陽性クローンを得ることに成功した。これらのクローンは、ヒト血清アルブミンやトランスフェリンなどの自己抗原とは反応せず、VT1特異的であることが明らかになった。現在、陽性クローンの反応特異性や反応親和性、さらにはVT1中和活性について詳細に検討中である。
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