研究概要 |
理科教師がどのような授業方法を取り入れるかは、教師の科学についての考え方と教職経験により形成される科学教育の考え方による。小、中学校の教員研修では経験豊かな教師からのアドバイスで、指導方法の改善を図る地区も多い。その指導方法は伝統的な仮説演繹法や観察・実験帰納法を支持することが多い。また、中、高等学校では教育内容の多さからも科学的知識の注入しようとする傾向が強い。本研究では、教師の科学の本質(The Nature of Science)についての理解と授業方法との関連性を追求することを目的とした。これまでの2回の調査研究から、理科教師が持つ科学の本質理解は伝統的であり、基本的には帰納的あるいは演繹的な学習指導を導入しようとしている。しかし、現実においては、進学等のために科学的知識を理解させるための学習指導を講じ、科学の本質に基づいていることはないことが明らかになった。 本年度調査として理科教師65名を対象とする「理科授業における科学観の取り扱い」に関する質問紙調査を行い、大学生(理科専攻)の結果と比較した。本研究では、McComas,W.F(2000)による科学観調査に基づいて「理科授業における科学観」「科学者の行う科学」についての16調査項目を設定した。調査結果から次のことが指摘できた。(1)科学の限界(学習内容の有用性)については、学生よりも教師が肯定的である。(2)科学の想像的要素(生徒の考えに基づく観察・実験の実施)は、教師は学生よりもきわめて否定的である。(3)実験の役割(科学は実験により導かれる)は教師よりも学生の方が肯定的である。(4)科学的知識の暫定性、科学の先入観と主観性、科学の文化・科学における推論の役割については教師も学生も肯定的であること。などが明らかになった。 理科の教師教育の中で「科学の本質」を見直し、正しく認識させる必要があるといえる。また、科学の本質を基盤とする理科教育の実践化については、観察、実験の意味と生徒同士の討論を導入することが必要である。その実践化と評価には、理科授業を動的に捉える授業研究が必要になることなどを検討した。
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